テクノロジーと緑が融合した、近未来のモデル地区「東京ポートシティ竹芝」
[ 2021.09.21 ]
まちづくりコーディネーター
百瀬伸夫
新型コロナウイルスによる影響は、社会のあり方を大きく変えてしまった。テレワークの定着で在宅機会が増え、時間の感覚や、身の回りの空間意識にも、さまざまな変化が生まれたように思う。外出機会が減り、無駄遣いをしなくなった分、少し贅沢をしたり、ライフスタイルや価値観にも大きな影響を与えている。
こうした変化を支えているのが、通信やIT技術の普及と進化にあるが、一方、安心安全で、身体的・精神的・社会的に良好な状態を求めるウェルビーイング欲求も高まっている。
今回は、より快適で便利なスマートシティの実験と、グリーンによる癒し空間づくりで話題となっている「東京ポートシティ竹芝」の取り組みから、今後の商環境のあり方を探ってみたい。

1. 「東京ポートシティ竹芝」の景観。緑に覆われた「スキップテラス」が建物の個性を表現。非常時には、テナント専有部へ通常時の80%の電力を5日間供給する。また、地域の防災拠点として、避難スペースを確保し、6,300人3日分の非常物資を完備
最先端のスマートシティに、テラス空間が似合う
2020年9月にまち開きした「東京ポートシティ竹芝」の2~6階低層部には「スキップテラス」が設けられ、植物多様性に配慮した植栽を配し、「雨・水・島・水田・香・菜園・蜂・空」をテーマとした「竹芝新八景」が展開されている。テラスを通じて、オフィスで働く人や来館者へ"緑との親和性"を高め、子供たちへの環境教育や自然体験活動にもつなげていくという。
また、当施設は東急不動産株式会社とソフトバンク株式会社がタッグを組んだオフィスビル&レジデンスタワーで、東京都による「都市再生ステップアップ・プロジェクト」の一つで、"世界で一番ビジネスしやすい環境"づくりを目指すもので、「国家戦略特区」の第1号にもなっている。
立地は、羽田空港に直結するJR浜松町駅から徒歩圏、新交通ゆりかもめ「竹芝駅」からも徒歩2分、眼前に「竹芝客船ターミナル」を擁する利便性が魅力だ。建物は地上40階のオフィスタワーと、地上18階の住宅棟で構成され、オフィスタワーの低層階は商業施設等が入居、9~39階がソフトバンクグループとソフトバンクの新本社である。

2. 首都高速道路を眼下に、浜松町エリアとつなぐ全長約500mの遊歩道「ポートデッキ」を整備

3. まるで棚田のような「スキップテラス」の全貌。水と緑を感じながら働く新しいワークスタイルを提案

4. 伊豆・小笠原諸島と結ぶ「竹芝客船ターミナル」は、東京クルーズの発着場にもなっている
当施設は、東急不動産と鹿島建設の技術を結集させ、ソフトバンクの最先端テクノロジーの実証実験の場として、ビル内外の人流データや環境データを収集・解析し、快適な環境と効率的なビル管理を可能としている。また、ロボティクスやモビリティ、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、5G、ドローンなどの最先端技術の検証を希望する企業や団体をエリアに集め、スマートシティのモデル地区として発展させていく構想である。一方、エリアマネジメントを担当する東急不動産は、スマートシティのノウハウを蓄積し、他のビル管理やエリアマネジメント事業に活かしたいと意欲満々だ。

5. 360°カメラ付きの自律移動警備ロボット「SQ-2」が常時館内を巡回、警備室に映像を送り、警備員をサポート

6. 床洗浄ロボット「EGrobo」。20:00~5:00の間、床をピカピカに!

7. 清掃ロボット「Whiz」は、飲食店フロアを黙々と掃除する働き者
最先端技術で商業施設の集客を図る!
ビル内で採用された最先端技術には、① 5G通信、② 1300台のセンサー群、③ 顔認証システム、④ ロボットの利活用が挙げられる。
5G通信により、高速大容量と多数同時接続が可能で、独自のアプリを利用すれば、館内各施設の案内、位置情報などが携帯端末に表示される。また、1300台のセンサー群が、人の流れを把握し、トイレ・店舗の空き状況、エレベーターの混雑状況、ごみ箱の利用状況がリアルタイムでわかる。館内のデジタルサイネージには刻々と表示が変化、スマホから飲食店情報を検索すると、客席の混雑状況が瞬時に把握でき、これらは今後の商業施設において最も導入が期待される技術ではないだろうか。世界的な大手カフェチェーンが米国で実施した調査では、きれいなトイレがあることが女性の入店動機の1位だったというから、待たずに利用できるトイレのニーズは少なくないはずだ。
また、顔認証システムでは、オフィスゲートの開閉、目的のフロアに一番先に着くエレベーターへ誘導し、フロアボタンを押さなくとも乗るだけで自動的に運んでくれるのだ。一方、交通情報から混雑を回避して効率的な出勤時間の調整も可能だという。三密対策や、ボタンに触れずに移動できるシステムとして、三井不動産の「東京ミッドタウン八重洲」(2022年8月下旬竣工予定)でも採用が予定されている。
飲食店やカーディーラー、銀行など、多くの商業施設で導入済みのロボット「Pepper」くんはすでに顔馴染みだが、「東京ポートシティ竹芝」では清掃ロボット、運搬ロボット、通話可能な警備ロボットを配備している。広範囲画像のモニタリングによって、ロボットはエレベーターを使い、複数階を移動することができ、活動範囲が格段に広がった。また、次世代型コンビニを目指す1階「ローソン」では、商品陳列ロボット「Model T」を導入、バックヤードの省人化に向けた社会実験も行っている。
2021年7月に開業した東京駅前の「TOKYO TORCH 常盤橋タワー」(三菱地所)でも、スマホで注文できるカフェや、ロボットが飲み物を配膳するラウンジがあるが、今後も最先端テクノロジーの進化により、より便利で快適な社会の到来を実感させる事例は次々と出て来るだろう。

8. 「スキップテラス」4階の「水田の景」では、日本の稲作文化が体験でき、YKKとソフトバンクが共同開発した農業用人工知能「e-kakashi」を設置し、日照量・地温と空気中の水分からなる「飽差」データの収集、CO2量の把握から、稲の生育や緑化活動に活かす実験も行っている

9. デジタルサイネージには、「スキップテラス」の空き状況と、屋外の気温・湿度が表示される

10. 全店舗に設置されたAIカメラにより混雑状況を把握、リアルタイムで館内約30カ所のディスプレイに表示
緑の効果を満喫、屋外庭園「スキップテラス」
東急不動産の取り組みで注目したいのが、緑が持つパワーをオフィスに取り入れる「Green Action」プロジェクトである。「東京ポートシティ竹芝」では、働く人の「健康を守る」「ストレスを軽減する」「ひらめきを生み出す」「絆を育てる」「モチベーションを高める」の5つを実践する「スキップテラス」を低層階に展開している。各階テラスを外階段でつなぎ、外部に開放されているので、近隣の人達にも人気だ。テラスには嗜好を凝らしたファニチャーや様々な植栽を配し、憩いのスペースとして、また緑あふれる建物として、海からの景観形成にも大きく貢献している。
テラスの緑地面積は約4,000㎡で、在来種を中心に高木、中低木25種を配し、「江戸のみどり登録緑地」(東京都)にも指定される優良緑地として評価された。
東急不動産は世界中の研究論文から、科学的根拠を集め、「植物の健康面への効果」「最も効果的な緑の量」「森林浴の効果」「集中力と生産性への効果」「期待できる自然の効果」を探求している。

11. 建物1階外の「雨の景」には、雨水を貯留しゆっくり地面に浸透させ、水害防止にも有効なレインガーデン。表面の石は伊豆諸島新島産の抗火石が使用されている

12. 歩道に面した長い壁も、緑化することで心地よい景観に

13. 「蜂の景」では、生態系に及ぼすミツバチの働きを紹介、スキップフロアの5階には大きな養蜂箱が設置され、「百花蜜」が採取できる

14. 高級リゾートホテルのようなテラスなら、ストレスフリー!!

15. 一人向けのカウンター席が植栽を取り囲み、働く人の創造性を引き出す"グリーンアクション"

16. 色とりどりのスタイルが選べるデッキファニチャー
便利で快適を目指す一方、喜びや幸せに回帰
国交省は2020年に、「2040年、道路の景色が変わる」というビジョンを策定した。クルマの自動運転やドローンが当たり前になる社会では、モノの移動が今以上に便利に速くなり、人々の行動やショッピングの形態も大きく変わると提言している。店や商業施設の役割は消費の場から、人々が交流し、自己実現やサービスを楽しむ場へと、進化していくことを予感させるものとなっている。
便利で安心安全なショッピングを実現するDXへの取り組みの一方で、緑豊かな快適で健康的な商環境へのニーズも確実に増していく。テクノロジーの進化と共に、人間の喜びや幸せとは何かを追い求めていくことが一層重要な時代を迎えているように思う。
スマートシティ「東京ポートシティ竹芝」が示したテクノロジーの進化と、緑による心の回帰は、今後の商環境における進化と回帰とは何かを考えるヒントになるのではないだろうか。

17. 「スキップテラス」3階のデッキ。「Green Work Style」の昼休みは、緑に映えるカラフルなファニチャーで
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- 執筆者:百瀬 伸夫
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武蔵野美術大学造形学部建築学科卒 (株)電通 環境設計部長、(株)ロッテ 専務取締役を経て現在、一般社団法人日本ガーデンセラピー協会副理事長、(株)タカショー取締役、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事ほか、中小企業アドバイザー(中心市街地活性化)、まちづくりアドバイザー、産業政策、高齢者就労など自治体の委員を務める。日本経済新聞社「JAPAN SHOP店舗総合見本市」コラム執筆、エクステリア・造園業界誌への連載、共著『新・集客力』などがある。
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