みどりのチカラを最大限に生かした「GREEN SPRINGS」
[ 2022.01.28 ]
まちづくりコーディネーター
百瀬伸夫
コロナ禍で人々の価値観が大きく変わる中、新たなライフスタイルを先取りした複合施設「グリーンスプリングス」(2020年4月オープン)に注目が集まっている。緑と人をつなぐ「まちの縁側」をテーマに、草木と花に囲まれた新たな文化都市空間の魅力をご紹介したい。

1. 「中央広場の緑地空間は口コミで評判を呼び、都心部からも来訪者を集める。
心地よい空間づくりが、人々の共感を呼ぶ
東京郊外にある立川市の複合施設「グリーンスプリングス」は、立川駅北口から徒歩5分、「国営昭和記念公園」と隣接し、多摩都市モノレール沿いの緑道に面した、緑豊かな環境に立地。施設は約39,000㎡の敷地に、商業、オフィス、美術館、保育園、ホテル、多目的ホール、駐車場等を配し、各建築棟に囲まれた中心部には約10,000㎡の中央広場が設けられ、植栽と水辺による見事な空間を形成している。

2. 多摩の原風景を再現した植栽

3. 風、光、水、緑の自然を満喫 !!
施設全体のコンセプトは「空と大地と人がつながる、ウェルビーイングタウン」で、"心とからだに気持ちいい街"を目指したという。当施設を"まち"と位置づけ、建物は「まちの縁側」とし、施設の屋根は大きくせり出し、5,000㎡を超える軒裏(軒天)には自然と調和するように多摩産の木材が使用されている。

4. 広場中央のオープンカフェ「グッドサウンズコーヒー」。大きく伸びた軒の下には開放的なテラス席

5. 広場には木製ベンチやテーブル席などくつろぎの居場所がある
中央広場は、立川の「歴史」と「未来」、そして「緑」と「水」が交差する空間として、「X」型の街路となっていて、この「X」軸に沿って、ビオトープ、キャノピー、噴水、カフェ&リビングルーム、芝生広場などを配置。さらに、広大な緑地の維持管理も徹底され、一年中美しい草花が来街者を迎え、点在する"あずま屋"は、コロナ禍で疲れた心身を解放し、人間本来の五感を呼び覚ましてくれる。また、寒い冬の期間はヒーターを随所に設置、暖を取る人たちに大好評だ。

6. 芝生広場の手前にはビオトープを配置、メダカも泳いでいる。地域の在来種を植栽し、豊かな水景が楽しめる
筆者はオープン時から季節の変わり目ごとに訪れているが、植栽の手入れが行き届き四季折々の花や緑が心地よく、維持管理の大切さを再認識させられた。中でも特徴的なのが多目的ホールの屋上展望デッキに向かうスロープ部分だ。水が流れる全長120mの階段式「カスケード(連なった滝)」で、夏場は水遊びの子どもたちに喜ばれている。かつてここに飛行場があった記憶を思い起こす滑走路をイメージしたという。

7. 多目的ホール前の庭。芝生のコンディションがすばらしく、いつでもピクニック気分。空と緑の対比がうつくしい!!>

8. なだらかな階段状の「カスケード」(長さ約120m)には水が流れ、開放感がいっぱい!!
多目的ホール「TACHIKAWA STAGE GARDEN(立川ステージガーデン)」は、多摩地区最大規模を誇る約2,500席の多目的・多機能エンターテイメントホールで、屋内ステージと屋外ステージが一つにつながるのも注目だ。また、広場に面する植栽の中にもスピーカーが配置され、ホールの音が外でも聞ける。屋上には昭和記念公園の森を一望できるテラスとバーがあり、コンセプトの「日本一開かれた劇場」を具現化している。

9. 多目的ホール「TACHIKAWA STAGE GARDEN」、客席数は多摩地区最大規模の約2,500席。音楽を中心としたエンタテインメント演目のほか、イベントや催事にも対応可能

10. ホール背面の壁がスライディングウォールのため、開放すれば芝生ガーデンとステージが一体化。外からステージまで見通せ、他にはない独自のエンタテインメント空間を実現
また、「SORANO HOTEL(ソラノホテル)」は、食事、スパ・温泉、フィットネス、ワークショップなど「ウェルビーイング」が体験できる。ロビーは"テント"をモチーフにキャンピングをイメージさせ、全客室とも52㎡・バルコニー付きで、客室や、屋上の「インフィニティプール」からは富士山、奥多摩の山々、夕日の絶景が見渡せる。

11. 「SORANO HOTEL」の屋上にある、都内屈指の約60mの長さを持つ「インフィニティプール」(温泉水)。晴れた日には富士山を望み、広い空の下で優雅に「ウェルビーイング」

12. 多目的ホール屋上のラウンジ「ザ・ドラゴンフライバー」がカスケードを上った先にある。店内のピアノは世界三大ピアノのひとつ、「ベーゼンドルファー」製で世界18台限定モデル「ドラゴンフライ」。
文化と自然の共存を実現したランドスケープ
グリーンスプリングスは、株式会社立飛ホールディングスがまちづくりの一環として、2015年に国有地(約39,000㎡)だった当敷地を落札した時から始まったのだが、計画は当然のごとくコロナ禍での社会変化を想定したものではなかった。しかし、「ウェルビーイング」と言うコンセプトは、withコロナのライフスタイルの変化を先取りし、急変した世の中の脚光を浴びることとなり、当施設は2021年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞した。「都市環境と自然環境の結節点として、文化と自然の共存を目指した質の高いランドスケープや、公共施設ではないかと思えるほどのコンセプトとコンプレックスを、立飛グループという民間企業が民間事業として実現している」ことなどが高く評価された。

13. 中央広場に点在するパーゴラは、地域の人たちにさまざまな使われ方をしている

14. 中央広場は冬でも各所にヒーターを配備し、暖が取れる
当施設は、容積率を500%から約160%に押さえ、地域社会や自然との共生、景観への配慮などから建物を低くし、さらに家賃が発生しない共用スペースを広く取るなど、ゆとりある空間を提供、効率重視の施設経営とは次元の違う運営を目指している。その端的な例は、広場に面する商業エリアの一等地をまちの"リビングルーム"として開放、来訪者が自由に使えるのがすばらしい。施設経営には大きな負担となるにもかかわらず、100年後のまちを見据えた企業としての奥の深い経営哲学が見て取れる。

15. 建物は"まちの縁側"として、広場に面する一等地を無料開放

16. 仕事や休憩など、自由に使えるグリーンスプリングスの「リビングルーム」。Wi-Fiはもちろん、ソファやトイレも完備、床には「LIVING ROOM」の文字
健康で気持ちのいい暮らしと経済活動の挑戦
立飛ホールディングスは1924年に株式会社石川島飛行機製作所としてスタート、現在は立川で広大な土地・建物を管理する不動産賃貸業を中核に営み、所有する土地は約98万㎡で、その広さは立川市の1/25に当たり、地元経済・文化の発展に大きく貢献してきた。
2015年、三井不動産と共同で大型商業施設「ららぽーと立川立飛」を開業し、2020年、グリーンスプリングスに全国の信用金庫で上位を占める「多摩信用金庫」の本店・本部も誘致、「たましん」(愛称)はギャラリーや美術館を開設した。また、世界でも注目されている地元の「ふじようちえん」の姉妹園となる「fujiれもん保育園」も誘致、施設内に親子で楽しめる"絵とことば"がテーマの美術館「PLAY! MUSEUM」や、子供の遊び場である「PLAY! PARK」も開設し、地域コミュニティの醸成へ積極的に取り組み、民間主導のまちづくりが進展している。

17. グリーンスプリングス内に新築移転した多摩信用金庫(たましん)本店ビル内2階に併設されたギャラリー(地域貢献スペース)は広場からも見通せて、日本近代美術の作品や多摩地域を代表する作家作品を展示。建物の中には「たましん美術館」がある

18. 跨道橋に描かれたAkari Uragami氏の作品「NEHAN」。鮮やかな色と輪郭が目を引く

19. 階段の踊り場に突然現れた公衆電話が非日常感を演出。クリエイティブユニットUrban Knit作の 「TELEPHONE AFTER ALL」
テレワークやオンライン会議が、急速に社会に受け入れられ、移動や住まい方の概念が大きく変わる中、新宿から25分の交通アクセスと、商業施設が集積した利便性の高さや緑あふれる当施設の誕生が立川のポテンシャルをさらに高めたように思う。
2021年12月当施設の多目的ホールで立飛グループ創立100周年事業の一環として第一線で活躍するアーティストたちによるクリスマスコンサートが入場無料で開催された。会場には、小さな子どもを連れた家族も多く来場するなど、「音楽を好きになる街へ」のコンセプトが街の人たちに受け入れられた。
グリーンスプリングスが目指すウェルビーイングは、健康で気持ちのいい暮らしと経済活動とをいかにバランスさせ、持続していくのか、優れた空間が人と経済を呼び込む"景観経済"への挑戦でもある。
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- 執筆者:百瀬 伸夫
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武蔵野美術大学造形学部建築学科卒 (株)電通 環境設計部長、(株)ロッテ 専務取締役を経て現在、一般社団法人日本ガーデンセラピー協会副理事長、(株)タカショー取締役、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事ほか、中小企業アドバイザー(中心市街地活性化)、まちづくりアドバイザー、産業政策、高齢者就労など自治体の委員を務める。日本経済新聞社「JAPAN SHOP店舗総合見本市」コラム執筆、エクステリア・造園業界誌への連載、共著『新・集客力』などがある。
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